東京大学大学院日記(62)

8月と9月は大学が夏期休暇になる。

この間も、集中講義や実習などはおこなわれる。

8月にはフィリピンへの10日間の出張、9月は「国際農学英語」の集中講義4日間、食品企業への実地研修(2企業)があった。

今日は、農学国際特論3。

一年間に5回、すべて土曜日の終日を費やしておこなわれる。

バングラディシュなど、アジアから大学教授を招いての講義。

農学系の講義は、純粋な農学系の講義と、食品に関係する講義とがあるが、やはり自分は後者に興味が自然と惹かれている。

農学系のものだと、専門知識が薄いので、まともな質問ができない。

だが、食品企業の方の講義だと、いくらでも質問が溢れ出てくる。

専門知識というのは、一朝一夕に身につくものではないが、何年も同じことを続けていれば、知らずのうちに膨大に蓄積されるものだと思う。

 

 

誤解を理解に変える努力

今回、味の素さんと大塚製薬さんの工場・研究所を訪問させて頂き、感じたことがあった。

「誤解を理解に変える」

自分ももと食品メーカー勤務として、味の素さんは販売元としてお世話になっていたし、大塚製薬さんは諦めずにねばる姿勢を尊敬していた。

ただ、社会は理解者ばかりではない。

味の素は、誤解を受けるシーンもこれまでにあった。

見学させて頂いて感じたのは、「味の素は、砂糖を発酵させてつくっている」など、素材の良さにフォーカスしたプレゼンテーションを意識しておこなっているということだった。

大塚製薬さんの場合は、輸液事業から「ポカリスエット」を生み出すわけだが、発売当初は「なんだこれは」という声もあった。これまでの市場に存在しないものだったからだ。

それが、いまや発売して何十年と経ち、健康なときだけでなく、スポーツの際、病気の際、人々に受け入れられてきている。

カロリーメイトしかり。

ちょっとやそっとじゃあきらめない。

この粘り強さが素晴らしい。

「誤解」

というと語弊があるかもしれないが、

理解されない状態から、理解してもらえる状態になるのには、時間がかかる、努力も要る。

それを、大企業が、地道におこなっているという事実。

いや、地道におこなってきたからこそ、ここまで大きくなったのだろう。

組織だけでなく、人も同じではないだろうか。

「誤解を理解に変える努力」を、自分はしているだろうか、し続けているだろうか。

「キレイごとぬきの農業論」久松達央氏著、新潮新書

「キレイごとぬきの農業論」久松達央氏著、新潮新書。

1、情報発信は情報収集でもある

本を読むとき、まず最初に読むのは目次。

そのときに目についたのが

「情報発信は情報収集でもある」

という言葉だった。

広報実務16年の経験者として、また「一人広報」を企業とNPOで合わせて12年実践してきた者として、企業広報の担当者の方向けに講演するときに、必ず伝えるのが

「情報は発信するところに集まる」

という言葉。

「情報を集めようとしない」

ということも伝えており、何人かの方からは「目からうろこ」と言われたりもしている。

広報実務に携わる方ではない方から「情報発信は情報収集である」という言葉が出てきているのは嬉しく、やはり実践できる人は自らそのtipsを発見できるのだと感じた。

全体を通して読んでみて、印象に残ったのは次の部分。

2、自分の中での価値は、市場価値とイコールではない

言い得て妙なり。

自分が楽しければいいとか、自己満足の世界で生きている人もいるが、趣味の世界ではそれでよくても、ビジネスの世界では通用しない。

主観だけでなく、客観性・俯瞰性を持つということ。

3、農業界は、マーケットレビューよりピアレビュー社会(仲間内の評価が先行する社会)

これも2と通ずるところがある。

仲間うちで褒め合っても仕方がない。

そしてこれは、企業においても散見される。

自社の製品に思い入れがあり、「消費者は必ずこの良さをわかってくれる」という思い込みがあり、丁寧に説明しなかったり、広告でも自己陶酔の世界に入り込んだりすることがある。

「親バカ」の目線ではなく、「担任教師」の目線を持つことが重要である、という言葉は、以前、雑誌編集長に聞いた言葉で、これも講演のときに広報担当者に伝えている。

すなわち「うちの子がね。うちの子が、うちの子が・・・」(親バカ)ではなく、「この子は、この分野についてはまだ成長途上だけど、こちらについては学年一位を争うくらいのレベルだ」(担任教師)といったように、全体を俯瞰する中で長所と短所を述べることができる、客観視できる姿勢を持つことが重要。

4、カイゼン(改善)のためのカイゼン

日本の製造業が陥りやすい状態。

本に書かれていることとは少しずれるかもしれないが、

品質に100%を求め、これではまだだめ、というように、これでもか、これでもかと改良を重ねている。その隙に、海外の競合メーカーは先手を打って、70%の完成度だったとしても(それが安全上、問題ないレベルであることを前提とし)市場に出してしまう。ビジネスの世界では「先手必勝」の要素もあるので、出しながら改良していかないと、立ち遅れてしまう。

太陽電池などは、かつて日本がトップシェアだったが、どんどん遅れをとってしまった。

また、海外の優れた人材をどんどん獲得していき、国境を越えたチームをつくって勝ちにいくのが海外のやり方。日本はよくも悪くもドメスティック。日本人だけで凝り固まっているふしがある。

5、引っかかりは多いほうがいい

これは本に書かれていることから発展させて、

一人の人材として、付加価値を複数持つこと、専門分野を2つ以上持つことも思い浮かべた。

専門分野を複数持つことにより、人材として、よりニッチに、より希少価値を高めることができる。

以上

また、番外編として、参考文献の幅広さも興味深かった。

女子栄養大学でご一緒している佐藤達夫さんの共著も取り上げられていたし、お会いしたことのある松永和紀さんの著書や、大学時代の指導教授の友人でいらっしゃる、京都大学の伏木先生の著書も。

Twitterでいつも拝見している佐々木俊尚さんの著書も挙げておられるが、従来の、いわゆる「農業書」では決して紹介されなかった分野であろう。

ここに挙げたことだけでなく、著者の格闘も含めてたくさんのことが詰まっているので、おっ、と思った方には手にとって欲しい。

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東京大学大学院日記(61)

大学院のキャンパスで、初めての場所へ。

御殿下のフィットネス。

三四郎池。

農学部教授が飼っていた忠犬ハチ公の臓器が保管してある農業資料館。

これまでの歴史の中で、いろんな人がここを通っていった。

自分も、その長い歴史の中では豆粒のような存在にしか過ぎない。

 

東京大学大学院日記(60)

8月から9月にかけては夏期休暇。

その間を利用して、たくさんの集中講義が開講される。

食品関連企業での実地研修もその一環。

今年は4企業が学生の研修受け入れを許可してくださった。

9月初めに、百貨店での研修に参加することができ、それを通して、仕事にも反映することができた。

また、月末にも食品メーカー訪問の研修が予定されている。

そして、9月には、「国際農学英語」の集中講義。

これは単なる英語の授業ではなく、英語で論文を書いたり、ポスターセッションやプレゼンテーションをおこなったりするためのもの。

実際にアブストラクトを書いたり、レポートを書いたりしてみて、ネイティブの先生に見て頂くことが可能。

仕事をしながら大学院に通っている身としては、夏期休暇があるのは大変有難い。