「キレイごとぬきの農業論」久松達央氏著、新潮新書

「キレイごとぬきの農業論」久松達央氏著、新潮新書。

1、情報発信は情報収集でもある

本を読むとき、まず最初に読むのは目次。

そのときに目についたのが

「情報発信は情報収集でもある」

という言葉だった。

広報実務16年の経験者として、また「一人広報」を企業とNPOで合わせて12年実践してきた者として、企業広報の担当者の方向けに講演するときに、必ず伝えるのが

「情報は発信するところに集まる」

という言葉。

「情報を集めようとしない」

ということも伝えており、何人かの方からは「目からうろこ」と言われたりもしている。

広報実務に携わる方ではない方から「情報発信は情報収集である」という言葉が出てきているのは嬉しく、やはり実践できる人は自らそのtipsを発見できるのだと感じた。

全体を通して読んでみて、印象に残ったのは次の部分。

2、自分の中での価値は、市場価値とイコールではない

言い得て妙なり。

自分が楽しければいいとか、自己満足の世界で生きている人もいるが、趣味の世界ではそれでよくても、ビジネスの世界では通用しない。

主観だけでなく、客観性・俯瞰性を持つということ。

3、農業界は、マーケットレビューよりピアレビュー社会(仲間内の評価が先行する社会)

これも2と通ずるところがある。

仲間うちで褒め合っても仕方がない。

そしてこれは、企業においても散見される。

自社の製品に思い入れがあり、「消費者は必ずこの良さをわかってくれる」という思い込みがあり、丁寧に説明しなかったり、広告でも自己陶酔の世界に入り込んだりすることがある。

「親バカ」の目線ではなく、「担任教師」の目線を持つことが重要である、という言葉は、以前、雑誌編集長に聞いた言葉で、これも講演のときに広報担当者に伝えている。

すなわち「うちの子がね。うちの子が、うちの子が・・・」(親バカ)ではなく、「この子は、この分野についてはまだ成長途上だけど、こちらについては学年一位を争うくらいのレベルだ」(担任教師)といったように、全体を俯瞰する中で長所と短所を述べることができる、客観視できる姿勢を持つことが重要。

4、カイゼン(改善)のためのカイゼン

日本の製造業が陥りやすい状態。

本に書かれていることとは少しずれるかもしれないが、

品質に100%を求め、これではまだだめ、というように、これでもか、これでもかと改良を重ねている。その隙に、海外の競合メーカーは先手を打って、70%の完成度だったとしても(それが安全上、問題ないレベルであることを前提とし)市場に出してしまう。ビジネスの世界では「先手必勝」の要素もあるので、出しながら改良していかないと、立ち遅れてしまう。

太陽電池などは、かつて日本がトップシェアだったが、どんどん遅れをとってしまった。

また、海外の優れた人材をどんどん獲得していき、国境を越えたチームをつくって勝ちにいくのが海外のやり方。日本はよくも悪くもドメスティック。日本人だけで凝り固まっているふしがある。

5、引っかかりは多いほうがいい

これは本に書かれていることから発展させて、

一人の人材として、付加価値を複数持つこと、専門分野を2つ以上持つことも思い浮かべた。

専門分野を複数持つことにより、人材として、よりニッチに、より希少価値を高めることができる。

以上

また、番外編として、参考文献の幅広さも興味深かった。

女子栄養大学でご一緒している佐藤達夫さんの共著も取り上げられていたし、お会いしたことのある松永和紀さんの著書や、大学時代の指導教授の友人でいらっしゃる、京都大学の伏木先生の著書も。

Twitterでいつも拝見している佐々木俊尚さんの著書も挙げておられるが、従来の、いわゆる「農業書」では決して紹介されなかった分野であろう。

ここに挙げたことだけでなく、著者の格闘も含めてたくさんのことが詰まっているので、おっ、と思った方には手にとって欲しい。

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