農林水産省主催の食品ロス削減シンポジウムが開催されます。3月5日に東京・新橋で、3月8日に大阪・梅田で、両日とも午後からのプログラムです。参加費無料、公開、カメラでの撮影もOKです。私も登壇し、「フードバンク活動について」と題して講演させて頂きます。
http://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kankyoi/130118.html
食料廃棄と食品ロスについては、世界各国で社会的課題となっています。世界のいくつかの国について、動きをまとめてみます。
以下
<世界>
国際連合食料農業機関(FAO)
2011年に「世界の食料ロスと食料廃棄」に関する調査研究報告書を発表。世界の生産量のうち、3分の1にあたる13億トンの食料が毎年廃棄されていることが判明。年間一人あたりの食品ロスは、北米115kg、ヨーロッパ95kg、南・東南アジア11kg、(農林水産省統計部の食品ロス統計調査によれば)日本は15kg。
経済協力開発機構(OECD)
OECD加盟国を対象とし、2011年からフードチェーンにおける食品廃棄物に関する統計の収集と比較をおこなうため、作業に着手。食品廃棄物の規模・原因・課題や食品廃棄に関する政策事例について分析予定。
<EU(欧州連合)>
欧州議会(EP)
2025年までに食品廃棄物を半減させ、発生抑制するための具体的行動を定めるよう、ECやEU各国に要請する決議が2012年採択。2014年は「ヨーロッパ反食品廃棄物年」になる。廃棄を避けるための啓発をおこない、期限表示と包装の適正化や、フードバンク活動の優遇などを決議。
欧州委員会(EC)
資源効率化の目標と方向性を定める欧州資源効率化計画を2011年に提出。持続的な食品消費に関する提案を2013年に採択予定。食品廃棄物を半減させるための資源効率化促進策を2020年までに検討。
<ドイツ>
ドイツでは、年間31万トン、12億ユーロ相当(約1236億円)の食品が廃棄されていることが、ドイツ小売研究所の調査で明らかになった。これを受け、ドイツ連邦消費者保護・食糧・農業省のイルゼ・アイクナー大臣は、2012年、食品ロスの実態について連邦独自の調査を実施とのこと。( 2011年11月24日付 オルタナオンライン記事)
イルゼ・アイクナー大臣が、年間1100万トンの食料廃棄を「耐え難い数字」とし、食料廃棄実態報告書の記者発表の場で怒りを露(あらわ)にした。同相は、「いまや食べ物の消費に対する闘いは政治的課題」と明言し、報告書発表と同時に、一般消費社向けの啓発キャンペーン「捨てるには良すぎる」をスタートさせたとのこと。(オルタナオンライン 2012年5月11日付記事)
http://www.alterna.co.jp/8991
<イギリス>
英国の機械技術者協会(Institution of Mechanical Engineers)
2013年1月10日、世界で生産される食料のうち、最大で半分に相当する20億トンの量が廃棄されているという報告書を発表。世界で年間40億トン生産される食料のうち、3〜5割が、消費されずに捨てられている。廃棄の原因は、発展途上国でのインフラや貯蔵施設の不足、先進国での「1個買えばもう1個無料」キャンペーンや消費者のこだわりにあるとのこと。世界の中でも最も廃棄量の多いのが英国。生産される野菜の約3割が、「形が悪いためスーパーが買い取らない」という理由で収穫されていない。欧州と米国の消費者が購入する食料のうち、半分が廃棄されている。この協会のエネルギー・環境部門を率いるティム・フォックス氏は「廃棄食料は、増加を続ける世界人口を支えたり、飢餓に苦しむ人々に与えたりできるはずの食料だ」と述べ、食料の生産・加工・配送といった過程で使われる土地や水、エネルギー資源が無駄になっていると指摘。(2013年1月11日 AFPBB NEWS)
“Global Food; Waste Not, Want Not” (世界の食料 廃棄を減らし、欲しがるのをやめよう)
http://www.imeche.org/Libraries/Reports/Global_Food_Report.sflb.ashx
<米国>
米国人が残飯などとして廃棄する食べ物が、年間1650億ドル(日本円換算で約13兆1000億円相当)にのぼることが2012年8月21日、アメリカ環境保護団体「天然資源保護協会」発表資料で明らかになった。1970年代の1.5倍。米国人は、自宅での食事や外食での食べ残しに加え、流通段階での無駄も含めて、流通する食べ物の約40%を捨てている。4人家族で年間2275ドル(約18万円)。東南アジアの10倍。米国政府は、イギリスの ”Love Food Haste Waste“を参考に、食品廃棄の削減に取り組むことを勧告している。(共同通信2012年8月22日付記事)
<中国>
中国式の食べ残しの宴会に反対し、「食べきり運動」がインターネット上で話題になっている。1980年代から議論されてきたのは、中国人が豪勢な宴会を催し、料理を無駄にしてしまうこと。彼らにとって、食べ残すことが礼儀であり、メンツを重んじることである。それが、ここにきて「残さずたべきるという節約、残さず食べ切るというボランティア。無駄に反対、食料を大切に!行動を起こそう、今すぐに!さあ、あなたも」とスローガンを掲げた北京市のボランティア団体の活動が、多くのインターネットユーザーから支持を集める。芸能界からも有名人が多数参加し、「光盤運動」(食べ切ろう運動)は、今や飲食業界をも巻き込む盛り上がりを見せている。
(2013年1月24日 チャイナネット記事より)
http://japanese.china.org.cn/life/txt/2013-01/24/content_27786187.htm
<韓国>
韓国では、1998年から、余っている食べ物を生活困窮者に配分する「フードバンク」についての議論がなされている。当初は、生ゴミ削減が目的であったが、途中から、欠食をなくすことも目的となり、韓国政府が社会福祉協議会に業務委託し、今では国内に300〜400以上のフードバンク団体が立ち上がっており、食料が集まる中央物流センターも設置されている。
韓国では、日本でお祝い事のときに飾られる花輪に相当する「米(コメ)花輪」というのがある。お祝い事のときに送られる。これが使い終わったあと、コメをフードバンク団体に寄贈する、という動きがある。私(イデルミ)が広報をつとめるセカンドハーベスト・ジャパンあてにも、J-BRAQ様より、何度か、お米を寄贈して頂いた。
https://sites.google.com/site/japanblaq/home/sapoto-jie-guo-1/sapoto-jie-guo
<日本>
政府が、4省庁連携で食品ロス削減に取り組むよう、指示。
食品業界(小売・卸・メーカー)が集まり、2012年10月〜2013年3月まで、ワーキングチームの会合が開かれている。
以上
いろいろな記事を検索していて驚いたのは、「米中韓国と比較すれば “日本は飽食の国ではない”と専門家指摘」という、2013年1月20日付のNEWSポストセブンの記事です。
欧米などの先進国と比較し、一日一人あたりの供給カロリーを調べると、「日本では3000kcalを超えたことがない」。また食料廃棄量についても、米国や英国、中国、韓国と比較して日本は少ない、だから「日本は飽食の国で世界一食べ物を捨てている国というのは、はっきり言ってウソである」と主張しています。
ドイツの食料廃棄は1100万トン、食品ロスは31万トン。かたや日本は食料廃棄1788万トン、食品ロス500〜800万トン。日本より、ドイツのほうがずっと少ないです。
世界を見渡して、食料廃棄の多い国もあれば、少ない国もあります。多い国、要するに、食料廃棄の観点では駄目な国、劣る国と比較して「日本はそれよりも少ないのだ」と主張して、それが何になるのでしょう。なぐさめ?無駄にしていないよという言い訳?責任逃れ?自分(日本)より劣るものを見つけて他を貶め、自分(日本)が上に上がる、という構図でしょうか。
日本は、年間コメ生産量(839万トン)と同じぐらいの量の、まだ食べられる食品を捨てています。世界一ではないかもしれませんが、世界で最も少ない廃棄量でもないでしょう。「食料廃棄の多い国に比べれば日本は少ない」という主張を発信して、いったい何の意味があるのか。理解に苦しみます。
記事には『日本を含めた各国の余剰食料を、そのまま途上国に送ることができるわけでもあるまい。』とありますが、フードバンク団体のセカンドハーベスト・ジャパンでは、途上国に送った実績もあります。ただ輸送費コストがかかるので、基本的には日本国内で、余剰食料を配分しており、2010年の食品取扱高は813トン、2011年には1689トン、2012年には3152トンと増えてきています。
前述の記事には『自らのスタンスを明らかにするために、まずは多くの事実を知る。課題解決のために、必要不可欠な第一歩目である。』とあります。そうであれば、日本の余剰食料がどれほどあるか、500万トンから800万トンの食品ロスの内容がどのようなものか、そのような事実があることも鑑みて情報発信して頂くのも必要なことと思います。
参考資料
2013年1月20日付 NEWSポストセブン 「米中韓国と比較すれば “日本は飽食の国ではない”と専門家指摘」
http://www.news-postseven.com/
日本は数兆円分もの食糧を捨てている!小売業界の「3分の1ルール」
オンエアナビ「一人広報の達人イデルミのコラム」(2012年4月13日)
賞味期限前に廃棄なんて…食品鮮度ルール緩和へ
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120929-00000552-yom-bus_all
読売新聞 2012年9月29日(土)14時41分配信
農林水産省 フードバンク
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/foodbank/index.html
農林水産省 食品ロス削減の取組(2012年10月)
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/pdf/sakugen_torikumi.pdf
セカンドハーベスト・ジャパン(日本で最初にフードバンク活動を始めた団体)
http://www.2hj.org/index.php/jpn_home
ドイツの食品ロスの31万トンというのは「小売店での廃棄量に限定した数字」だし、日本の500〜800万トンというのは「食品製造業の事業所や家庭での廃棄量なども含めた数字」なので、同列に並べて比較してはいけないものだと思いますけどね。
ちなみに「消費者によって廃棄される年間一人あたりの食料ロスはヨーロッパで95kg、北アメリカで115kg、南・東南アジアで11kg(日本は15kg)である。」というデータもあります。
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/pdf/sakugen_torikumi.pdf
3ページ目
確かにそうですね。ご指摘頂いてありがとうございます。次回の講演ではそのようにお話するようにいたします。
ただ、日本の食品ロスのうち、食品事業者由来のロスが300-400万トンありますので、これだけとっても、日本はドイツの10-13倍あるといえます。この中から小売業由来のロスだけを取り出すことはできますが、そもそも、事業者系のロスの大半を占める製造業のロスは、小売店が大きく関与しています。製造業が小売店で欠品を起こせばペナルティが課せられるため、生産計画としては多目に多目に作らざるを得ない社会構造になっています。
農林水産省の白書によれば、日本の食品小売業の食料廃棄量は、年間135万トンです。
食品業界に勤めた人ならわかりますが、日本の小売業でロスが少なくいられるのは、製配販のヒエラルキーも要因の一つです。販売が最も高い地位を保っています。卸店もしくは物流センターに返品ができます。メーカーに対しては、欠品を起こせばペナルティを課すことができます。バイイングパワーにものを言わせて、命令することができます。もちろん公正取引法で取り締まりはありますが、現実問題、そういうパワーが働いています。それは事実です。
FAOのデータでは、日本の一人当たりのロスは欧米に比較して少ないですね。
「日本の食品ロスは他国と比較して少ない」と主張したいときには便利なデータだと思います。
農林水産省の資料
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/pdf/sakugen_torikumi.pdf
によると
食品小売業119万t となっております。ドイツの31万tの4倍弱ですね。
(計算が面倒なので以下120万t-30万tの4倍で計算します)
それから
日本の人口1億2千万人、ドイツの人口が8千万人です。
日本はドイツの1.5倍の人口ですから、これは計算に加味しなければ公平とはいえません。
もう一人当たりで行きましょう。
日本 1,200,000/120,000,000=0.01
独逸 310,000/ 80,000,000=0.003875
日独小売業廃棄量/(人口割)倍率 0.01/0.003875=2.58064516129≒2.6倍
約2.6倍となりました。
本来人口割ならば総廃棄量や可食分総廃棄量の方が適切かと思いますが、存じませんのでご理解いただければ幸いです。
失礼。本記事に独逸の年間廃棄量約1100万トンとありました。
では簡単に計算を。
年間総廃棄量(人口割)比較
日本 1,900万t/120,000,000人=0.1583(t/人/年)
独逸 1,100万t/ 80,000,000人=0.1375(t/人/年)
比較すると 0.15833333333…/0.1375=1.1515151515…
約1.15倍です。
人口を八千万人でそろえた場合
日本 1,266.67万t
独逸 1,100.00万t
総廃棄量は大差ないのに小売廃棄量は約2.6倍。面白いですね。
食品に関わる他の過程(生産、加工、消費)いづれかの廃棄量が独逸との比較の上で無駄が少ないのでしょうか?
生産、加工、小売、消費者、可食非可食率といろいろ数字を出して比較してみれば働きかける場所、方法のアイディアが出てきそうな予感がします。
何の気なしに計算してみただけですが、非常に興味深く有意義な時間を過せました、本当にありがとうございました。
数字の計算おつかれさまでした。
食品業界から発生する廃棄物のうち、
製配販(製造業・卸売業・販売業)と外食産業の内訳に関しては
農林水産省が発行している白書に掲載されています。
製造業がダントツ、最も高いです。
ただ、数字だけを見れば製造業が悪いように見えますが、
3分の1ルールにより、販売業から卸店に返品、
卸店からメーカーへ返品・・と返ってくることや、
メーカーは産業廃棄物、卸と販売は一般廃棄物扱い、
ということなど
さまざまな要因や背景があっての、
製造業の廃棄量の多さとなります。
それと、食品リサイクル率は製造業が最も高いです。
日本の廃棄が多いのは、日本人が飽食なんじゃなく、麺類がおおいからやで。。。日本人、みそ汁は残さんけど、ラーメン麺類の汁はなぁ。
つか、麺類の話は農工大の教授も言っとるやん。そんなことも知らんで講演してたのか・・・。
国(=農林水産省)が実施している食品ロスの統計調査では、ラーメンなど、麺類の食べ残しのスープは食品ロス量に含めておりません。
詳細をご確認ください。
http://bit.ly/1TQYdpi
→外食産業調査においては、ラーメン、そば、うどん等のつゆ、天ぷら等のつけ汁、薬味等の必ずしも完食しない部分の食べ残しについては、食べ残し量には含めないこととした(食品使用量に対する食べ残し量についても同じ。)。
ピンバック: 食品ロス量に麺類の汁の食べ残しは含まれません(農林水産省 食品ロス統計調査) | イデルミ.com