2004年、新潟中越沖地震が発生した週末、支援物資を提供した企業の記事を全国紙で読んだ。
「これは自分の会社(食品企業)でもできるかもしれない」そう思い、週明け、社長と工場長にお願いしてOKをもらい、主力商品を支援物資として手配した。
Delivered disaster relief supplies to Niigata when the Niigata earthquake occured in 2004
その後、お客様相談室に一人の声が届いた。
被災した方からだった。
「電気もガスも水道も止まってしまい、何もないとき、これだけで食べられるのは本当に有難かった。栄養バランスもとれているし、今後は非常食や災害食として販売していったらいいと思う」
支援物資を送ったことに対する御礼の電話だった。
お客様相談業務をやってみればわかるが、御礼や褒める声はまずほとんど届かない。
9割がた、お問い合わせか商品の不具合、苦情。
考えてみてほしい。どこかの商品が美味しいからといって、その会社に平日の昼間に電話をかけ、「いやー、これ、本当美味しいですよ、こんな商品作ってくれてどうもありがとう」などと言うだろうか。
被災して大変なのに、わざわざ電話をかけて御礼を述べるという行為をとってくださった、名前もわからないそのお客様に、心から感謝した。
その声はたった一人の声だが、私の中に強く印象づけられた。
2011年、東日本大震災が起こった後、新潟から頂いたこの声を思い起こした。
被災地とそうでない場所でのシリアルの活用方法をまとめ、2004年に新潟から頂いたこの声も添え、いくつかのメディアに配信した。
日本経済新聞の記者が「これは社会に伝えるべきだ」と取材に来てくださり、2011年5月、記事にしていただいた。
最近の五輪エンブレムの出来事を受け、「ほんの数件の抗議、数人のクレームは世論ではない。時として黙殺することが求められる」と書かれた記事を読んだ。
確かに、何かを判断するとき、数は重要な要素である。だが同時に、質も重要だ。
製造業の生産現場では、ハインリッヒの法則が使われる。1つの重大事故の背後には29の軽微な事故と300の異常が存在するとみなすものである。
クレームの場合、お客様から数件の声が届けば、その背後には100以上の不満があると考える。
ほとんどのお客様は、不具合があってもわざわざ連絡はしない。
もう二度とその商品を買わないだけだ。
商品に不具合があった場合、企業側としてすべきは、それにより健康被害が出ているかどうかを確認すること。
たとえ数件のお客様の声であっても、黙殺はしない。
それどころか、同じような内容が数件重なれば、それは何か重要な兆候と考える。
数は大事。
でも、質も大事。
数を過大視すると失敗する。
新潟から頂いた、たった一人の声。
10年以上経つ今でもはっきりと記憶し、感謝している。
(写真は昨年9月、学会発表で広島へ行ったときに撮影)
Attached photo is shot at Miyajima, Hiroshima, JAPAN
参照記事
「ネットの声を世論と錯覚する愚 五輪エンブレム問題から考えるネット世論追認の危うさ」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/furuyatsunehira/20150903-00049142/
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