高知でようやく銀行の支店長になった父が、その5ヶ月後に突然倒れ、脳梗塞で亡くなったのは46歳。病院で、当時10歳の弟と私が別室に呼ばれた。お医者さんが「脳梗塞とは、脳のこの部分の血管が詰まり、これこれこういう病気です。」と、図を書いて説明してくれた。そのお医者さんの、顔も声も忘れてしまったけれど、真摯な姿勢だけは、しっかりと記憶している。
仕事で「実」だけを必死で取ろうとするやり方には違和感を感じる。実績をつくる。数字をつくる。もちろん私だって、実績も数字も欲しい。誰だって、熱意を持って仕事をしていれば、そんなの当然だろう。でも、仕事ってそれだけじゃないよねと、あのお医者さんを思い起こして考える。
10代の子どもに、父親の死因を説明しようがしまいが、その医者に対する評価は変わらないだろう。患者はもう死んでしまったのだから。他に手の施しようもない。
なのに、その医者は、われわれ子どもに対し、誠実に向き合ってくれた。その姿勢は、私の脳裏に刻み込まれている。
仕事で結果を出す、評価される、実績を残す。でもそれ「だけ」を貪欲に追い求め過ぎるのは、どこか、こころ(愛)が抜けてしまっているように感じる。
数字だけを求めるのに違和感を感じるのは、こころがなくても数字はつくれるからかもしれない。機械じゃなくて人間が仕事してるんだから、機械にはできない部分がないと、どうも人間味に欠けると感じてしまう。
仕事に対する姿勢が、ひとのこころに深く残り、のちのちになっても咀嚼して味わってもらえるような、そんな “仕事” をしていきたい。
真摯なお医者さんのいらっしゃった病院は、今回訪問させていただいた食品事業者の近森産業に関係する、近森病院でした。母に確認して初めて知りました。近森正久さん、谷脇寛さん、白木久弥子さん、近森産業のみなさまには、工場見学、歓待していただいて、ありがとうございました。
今回の講演に呼んでいただき、高知の思い出を新たに作ってくださった青木美紀さん、講演ご一緒させていただいた鈴木和樹さん、阿部知幸さん、大野覚さん、講演を聴きにきてくださった高橋実生さん、ワークショップに参加いただいた藤野紀子さん、ほか、今回新たにお知り合いになりましたみなさまに、感謝申し上げます。
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