今年5月まで理事をつとめていた日本広報学会が20周年を迎えました。
きのうと今日(2015年9月12日)、日本広報学会20周年記念大会が東京大学大学院情報学環・福武ホールで開催されています。
本日午後は「災害復興と情報発信」と題した公開シンポジウムが開催されています。
ここで、聴講した内容から、トピックスをとりあげます。
<感想>
広報学会の「情報発信」というテーマにおいて最も興味深かったのは、1995年、阪神・淡路大震災発生時に神戸市広報課長だった櫻井誠一さんのお話でした。
震災は、いつ、なんどき発生するかわかりません。
突如の事態で電話もFAXも使えなくなり、そのような危機に際してどのように情報発信し、市民との信頼関係を構築していったかという経験からの生のお話は、広報に携わる者にとって、興味深い内容でした。
また、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター副センター長・教授、小山良太さんのお話は、気持ちがビンビン伝わってくるようなプレゼンテーションでした。やはり発表する以上、「情報」だけでなく、発表者の思いも伝えて欲しい、そんな願いを充分に満足させてくれる発表でした。「情報」だけ入手するなら、会場にいなくても、会場にいた人に後から聞けばいいだけの話ですが、音楽でいう「ライブ」のように、そこに居た者にしかわからない情熱を伝えてほしい。
こうしたシンポジウムの ”パネルディスカッション” でいつも思うのは、パネル同士にディスカッションが自然に生まれることこそ真のパネルディスカッションではないかな、ということです。以前、「台本」ができていて、台本通りにパネルがしゃべっていく・・・というパネルディスカッションでは、聴講者アンケートでの評価が著しく低かったと(主催者に)伺いました。司会進行役が登壇者に順番に意見を聞いていくだけで、パネル同士の生の議論が一切発生しないのなら、ただ順番に発表してもらい、会場から質疑応答してもらえばいいのでは、と、すこし物足りなくも感じました。
聴講者としては「アドリブ」を含めた「ライブ感」を求めると思うのです。
(敬称略)
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日本広報学会20周年記念大会公開シンポジウム
災害復興と情報発信
主催:日本広報学会
共催:日本災害情報学会
日本災害復興学会
地域安全学会
東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター
後援:日本地震工学会
日時:2015年9月12日(土)13:30〜17:50
場所:東京大学大学院情報学環・福武ホール(本郷キャンパス)
基調講演:13:30〜14:30
岡本 全勝 復興庁事務次官
「東日本大震災からの復興と情報発信」
パネルディスカッション:14:40〜17:50
櫻井 誠一 元神戸市代表監査委員・元神戸市広報課長
「阪神・淡路大震災における広報の課題」
小山 良太 福島大学うつくしまふくしま未来支援センター副センター長・教授
「福島の食・農業の再生と情報発信」
江尻 哲生 いわき市役所 元見せます!いわき情報局見せる課(農政水産課)係長
「いわき市における風評被害払拭と地域の再生」
コーディネーター
関谷 直也 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター特任准教授
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1、基調講演:
岡本 全勝(おかもと まさかつ) 復興庁事務次官
「東日本大震災からの復興と情報発信」
*住まいの確保に関する事業が平成28年度以降に残る18市町村(平成31年3月をめど)
野田村・洋野町・宮古市・山元町
大槌町・南三陸町・新地町・東松島市・七ヶ浜町・名取市・多賀城市
山田町・釜石市・大船渡市・陸前高田市・気仙沼市・石巻市・女川町
東京オリンピックは平成32年におこなわれるので、全員が(避難先ではなく)自宅でオリンピックを見られる、ということになる。
*平成27年8月現在、全国におよそ10万8000人が避難している。
*復興庁では、すべての情報をホームページ上で公開している。
問合せが来たら、ホームページへ誘導している。
http://www.reconstruction.go.jp
*復興庁職員は2年任期で入れ替え。
職員の半分が新人。
マスメディアとの情報交換を定期的におこない、
厳しい見方をしがちなマスコミの方へ理解をして頂くよう、最大限の努力をしている。
*地方紙である「河北新報」(2014年2月7日)の一面で「復興庁2年 司令塔役評価」と一定の評価を得たものの、風評被害に苦慮している。
その一つが福島県産農産物、もう一つが福島県教育旅行(修学旅行など)入込数推移。
修学旅行の候補地として福島県を提示すると、一部の”モンスターペアレント”が「なぜうちの子どもをそんなところへ行かせるのか」と言ってきて、学校側は候補地からはずしてしまう。
福島県教育旅行入込数推移
学校・団体数 宿泊延べ人数
平成19年 8,193 747,549
平成20年 7,863 727,275
平成21年 7,920 709,932
平成22年 7,647 673,912
平成23年 2,082 132,445
平成24年 4,042 240,148
平成25年 4,776 318,618
平成26年 5,199 350,704
*聖火ランナーにはできる限り、被災地を走ってもらう。
2、櫻井 誠一(さくらい せいいち) 元神戸市代表監査委員・元神戸市広報課長
「阪神・淡路大震災における広報の課題」
*神戸市は「神戸には地震がない」という思い込みがあり、震度7の地震の想定がなかった(震度5までの想定しかなかった)。もともとは水害の街だった。当時は携帯電話もなく、ポケットベルが使われていた
*1995年1月17日の神戸市職員の出勤状況
教育委員会の出務率は92%、消防局は95%と高かったが、区役所では24%、市長部局では35%など低かった。特に区役所では共稼ぎが多く、出勤できない夫婦が多かった。そのため、震災の発災直後は業務量が3倍に増えるのに、人は普段の3分の1しかいないような状況だった
*広報課員に対して、ビデオや写真を撮りながら出勤させ、撮ったものをメディアに使ってもらった。
NHKの生活情報ラジオに神戸市の災害対策本部のスペースを提供して情報発信したことが功を奏した
「・・それでは続きまして、神戸市の災害対策本部の中にNHKが設置した臨時スタジオ、生活情報包装センターから伝えてもらいます。」
といった具合。
市民が「行政はちゃんと対応してくれている」と感じ、市民との信頼関係が醸成された
*初動のときに、メディアとタイアップすることが、市民との信頼を築く上で非常に大切だった
*コピーが使えないため、手書きでの情報発信を駆使した
1月18日からはインターネットによる情報発信をおこなったが、おそらく国内では見ている人はいなかったと思われ、主に海外向けとした
1月25日からは「張り出し広報誌」を活用した
避難所での情報交換も張り紙方式とした
*当時の教訓として
「普段使っていないものは緊急時には使うことができない」
1995年の阪神・淡路大震災でも2011年の東日本大震災でも、紙媒体は多く活用されていた
*神戸市の被災者が地震当日に役に経った情報の入手先(東京大学社会情報研究所調査)
1、NHKラジオ 42.5%
2、大阪の民間放送ラジオ 29.2%
3、役に立ったものは特にない 25.5%
4、家族や近所の人との会話 24.0%
5、NHKテレビ 12.0%
(参考資料として財団法人神戸市都市問題研究所が1995年7月に発行した「都市政策」80号 p36-74 掲載記事コピーが聴講者に配布された)
3、江尻 哲生(えじり のりお) いわき市役所 元見せます!いわき情報局見せる課(農政水産課)係長
「いわき市における風評被害払拭と地域の再生」
いわき産 脳裏水産物の出荷制限状況
福島県沖で漁獲された海産魚介類
さんしょう(野生) 平成25年5月15日〜現在
こしあぶら 平成24年5月14日〜現在
ワラビ 平成24年5月10日〜現在
ぜんまい 平成24年5月2日〜現在
たらの芽(野生) 平成24年5月1日〜現在
たけのこ 平成24年4月9日〜現在
原木なめこ(露地) 平成23年10月31日〜現在
野生きのこ 平成23年9月15日〜現在
4、小山 良太 福島大学うつくしまふくしま未来支援センター副センター長・教授
「福島の食・農業の再生と情報発信」
*なめこは相馬が発祥の地。
*2011年に多くの”失敗”をおかしてしまったことが、今なお響いている。
(安全検査もしないまま「2年後に帰村させる」と発表してしまう、など)
*「原発事故直後、食品生産に適さない程度まで放射性物質で汚染されたとあなたが思う地域をあげてください」という問いに対し、会津は評価が分かれる。地元の人は、距離からして安全だと理解できるが、東北から離れれば離れるほど評価が低くなる。また、栃木県・茨城県民は地元に不安を感じている。
*TOKIOの広告に関しては、福島県は、某広告代理店に対して、相当額のお金を払っている。
でも、広告代理店だけが儲かって、TOKIOは一円ももらっていない。
「TOKIO」、福島県のCM出演はタダだった 「さすが」「カッコ良すぎる!」と称賛の声
http://www.j-cast.com/2015/07/31241701.html
TOKIO、福島応援CMの出演料は0円
http://www.cinemacafe.net/article/2015/07/30/33068.html
*「一番信用できない大学は東京大学、次が東京工業大学、そして福島県立大学」
*「なぜ安全なのか」ということを、生産者自身がきちんと社会に説明できるようになる必要がある。
それがなしに「ゼロです」だけでは、不安にかられている人に説明し、理解してもらうことはできない
「なぜ安全なのか」=福島県だけは体系立った下記のような高レベルの検査を実施しているから。
1、農地:全農地の放射性物質分布マップ作成
2、植物体:科学的な分析
3、農産物:食品モニタリング検査
4、食品:消費地検査(直売所、公民館、小学校など)
ここまで実施しているのは世界でも例がない。
*井上きみどりさん「ふくしまノード」18話で取りあげていただいた。
マンガを活用するのも(わかりやすく伝える上で)よい方法だと思う
5、パネルディスカッション
(櫻井さん)
*2009年に発生した「国内初、新型インフルエンザ」発生時、保健福祉局長として対策にあたった際、「情報の確かさ」と「言葉の難解さ」に困った。翻訳された専門用語が誤訳だったこともあった。
(コーディネーターより)
インターナルリレーションについて
政府の対応がころころ変わった。みなし仮設の問題、福島の賠償の問題など、地方の行政に説明しないままメディアに出てしまうため、行政に対する不信感が生まれてしまった。職員間同士の不信感の増大もあった。
(櫻井さん)
*阪神淡路大震災のとき、職員同士の情報共有は非常に大事だった。
市民から質問されたとき、回答できないと、不信感を生んでしまう。
聞かれたとき、「これはあの担当者ですよ」などと案内できることができればよい。
(コーディネーターより)
福島県内と福島県外での意識のギャップ
事例:
福島県内の農業者は、ここ数年間、よく勉強してきている。
「全量全袋検査」は、福島県内の人は8割以上が認知しているが、福島県以外の46都道府県の人は半数くらいしか知らない。
県内では当たり前のことが、県外には伝わっていかない。
福島県のニュースでは、放射性物質のことが4年半、毎日、報道されている。
かたや、県外の人は離れてしまっている。
このギャップをどうしたらいいのか。
(小山さん)
*4年半「他人事」になってしまうと、今からギャップを埋めるのは難しい。
だが、今から「今回の原発事故の問題について」総括して発信してはどうか、と思う。
ベラルーシの事故も、ソ連が崩壊したからこそ、情報を出すことができた。
日本も政権が震災発生時から変わっているのだから、今こそ総括して特集して出したらどうだろうか。
*水俣(の公害)も、何年もかけて、水俣に関する(マイナスの情報も)きちんと出してきた。
いわきの「見せる化」についても、一部の人は知っていても、東京の人はほとんど知らない。
サザエさんの番組で、一度、CMをやったことがあるが、また一般の人向けにわかりやすく解説することができたら。
*大反省会
当時の管総理などを並べて「大反省会」をニコニコ動画などでやったらどうか。
責任も問わないし、謝罪もしなくていいから、一度、総括したらどうか。
(コーディネーターより)
災害時の広報は、なかなか活かされないのではないか
社内には記録があっても、社外には発信されない
不祥事の問題や危機対応の問題は外に出にくいのでは
(櫻井さん)
*自然災害に対する対応の「防災対策」の中に、広報の重要性が盛り込まれていない。
阪神淡路大震災の後、少しそのような内容が盛り込まれた。
*伊勢湾台風のときの資料をなぜ私が持っているか。
伊勢湾台風の後、神戸市が名古屋市へ行って調査をしている。
「神戸の水害史」の資料を調べていたら、その調査資料が出てきた。
調べたことを、組織に共有化していくことは必要だが、神戸市の場合、調べただけで終わってしまっていた。
(コーディネーター)
担当者が異動してしまった後、経験値が組織内に残っていきづらい。
(江尻さん)
*人が変わると、「思い」が受け継がれない
(小山さん)
*「原子力対策基本法」を、日本はいまだに作っていない
教訓を何に活かすかといったら法律ではないか。
復興庁に(原発事故のことまで)やらせること自体、間違っている
ただ学者が書き残すだけでなく、法整備に活かしていく
復興庁も、8割は民間から来ている人たち。
やってきたことを次に伝えるために。
*米のままだと全量全袋検査をしないといけないが、日本酒にすればタンク1つの検査で済む
(コーディネーター)
福島原発の問題が解決されないまま、再稼働になってしまっている
グループ補助金の問題
福島の場合、最も困っているのは「どれくらい産業が戻ってくるのか」「営業できるのか」であり、質が違うのに分けなければいけない
http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kifuku/
Q&A(質疑応答)
Q 「教育」の観点について
教育はリレーションズを形成する上での重要ポイントではないか
A (小山さん)
福島県農産物の検査を日本生協連がやったのは、社員教育の一環でもあった。
奈良と大阪が最も多く来ていた
3年間続けている
現場でボランティアをやりながら組織活動に活かしていっている
2012年から12校で測定した結果を福島県内の高校生が論文に書いている。
だが福島県外の高校ではそのようなことを学ぶ機会がほとんど無い。
ギャップがどんどん拡がってしまっている。
ベラルーシに滞在したときに主張していたのは、
放射線に関する教育やリスクコミュニケーションは、
被災地(福島)ではなく、首都圏(東京)でやらなければならないということ。
(コーディネーター)
民間でおこなわれているのは被災地への人材派遣・人材交流(出向)
その人が戻ってくることで何らかのノウハウを学んでほしい
Q 「プロメテウスの罠」のような、優れた報道・特集が、4年たった今、
ジャーナリズムから出てこないのはなぜか?
A (小山さん)
震災から3年はメディアが大勢来ていたが、その人々が異動して、新しい人がゼロから来ている
「クローズアップ現代」に2回出たことがある(2012年、2013年)
「これから解明していく」という段階では番組がたくさん作られていたが、
2014年からはオリンピック関連が増えて、もうメディアが来なくなった。
地元のテレビ局ではやっているのだが、伝えたい首都圏の番組がとりあげられない状況。
まとめ(コーディネーター)
1、災害時の情報発信は教訓として残りづらい
2、災害時の対応は、組織(企業)の不祥事と共通する部分がある
STAP細胞、オリンピックのエンブレム、オリンピック会場の問題など
組織のガバナンスの問題がここ20年取りあげられてきたが、この数年間は、「社会との関係性においていかにデザインしていくか」にうつってきているのではないか。企業の問題から行政の問題、科学技術の問題などへとうつってきたのではないだろうか。
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