FAO(国際連合食糧農業機関)が2011年および2013年に発表したレポートによると、世界の生産量の3分の1に当たる13億トンの食料が、毎年、廃棄されている。一方、WHOによれば、一日US$1.25以下で暮らしている人が世界に12億人存在している。日本の中だけでなく、世界でも食品ロスと貧困という「食の不均衡」が発生している。たとえばヨーロッパでは2014年を「反食品ロス年」と名付ける、食品ロス削減の数値目標を立てる、など、食品ロス削減に向けた活動が進んできている。
世界で初めてフードバンク活動を始めた米国では、フードバンクに寄付すると税金が安くなる税制上の優遇措置がある。企業は課税所得の10%、現物寄付の場合は原価の2倍を上限に税金控除が可能である。また、万が一、食品を寄贈したことで、意図しない不慮の食品事故が起こったとしても、寄付は善意でおこなったことなので責任を問わない「善きサマリア人の法」という免責制度もあり、食品事業者が寄付しやすい土壌がある。また、困窮者は野菜が不足しがちだが、余剰農産物を困窮者に活用する法律などがあり、国が余剰農産物を買い取り、困窮者に活用できる仕組みもある。1992年から毎年5月の土曜日におこなっているStamp Out Hunger(貧困撲滅)という取り組みは、自宅で余っている食品を、年一回、5月の指定された土曜日に、自宅の郵便受けのところに置いておけば、郵便配達の人が回収してまわり、それを困窮者に活用するという、国ぐるみのフードドライブ(食品持ち寄り運動)がおこなわれている。2014年5月には、郵便配達員30万人がこれに参加した。
中国では、出された食事を全て食べ尽くすのは「足りないからもっとよこせ」という意味にもなり、食べ残す習慣があると言う。数値は諸説あるが、2013年1月に日本で報道されたには、年間5000万トンの宴会食べ残し料理が廃棄されており、穀物生産量の8%、野菜生産量の20%に相当するという。そこで農業省の農産品加工局長が「驚くべき量。食料節約は国家戦略上、極めて重要であり、政府は節約を指示すべき」と発言し、市民や著名人もこれに賛同し、中国光盤運動(食べ残し撲滅運動)が始まっている。
台湾や韓国は、分かち合いの文化が浸透している。生活困窮者が、一般の市価より安く食品を手に入れることができる「フードマーケット」が存在している。また韓国では、家庭で余っている食品を、スーパーマーケットで買い物の際に投入できるボックスが設置されているスーパーもある。韓国では生ゴミを埋めていたため、1990年代にフードバンクに関する議論が起こり、1995年には環境部・保健福祉部などで生ゴミ管理協議会が設置された。1997年にソウル市食品寄付センター設置提案が出され、1998年いはフードバンクモデル事業を4カ所で実施。2000年に韓国社会福祉協議会を、全国フードバンクを統括する最上位組織に認定、2009年には全国フードバンク設置が306カ所、2009年には寄付食品中央物流センターが開設、2013年には425以上のフードバンク団体がある。国策としてフードバンクを進めるやり方には、このように浸透が早いというメリットもあれば、手続きが遅い、市民が当事者意識を持ちづらくなるなどのデメリットもあり、日本のような市民運動と単純に比較することはできず、拙速には判断しづらい。
トルコにも、生活困窮者が無償で入手できるソーシャルマーケットがある。これは食料支援が必要な家庭のみ使用可能の店である。ポイントカードのようなものが支給され、ポイントの上限内で欲しい食品を手に入れることができる。イタリアでは買い物客にスーパーの入口でチラシが配られ、たとえば「ツナ缶5つ」と書かれていたら、買い物客はそれを購入し、出口のボックスに投入すると、それが困窮者に活用される。ほかのヨーロッパの国にも、トルコのソーシャルマーケットと同様のマーケットが存在している。ドイツでは、小売店からの食品廃棄が日本の5分の1(約31万トン)に過ぎないが、前述の通り、「捨てるには良過ぎる」という国家的プログラムを2012年に実施している。
ヨーロッパでは、1984年にフランスでフードバンクが設置、1986年にヨーロッパフードバンク連盟ができ、1993年にはドイツでフードバンクが始まった。フランスに最も多く、79団体以上ある。
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