「はい、再検査ですね」
母と二人で行った、東京都内の健診センター。
母のことを心配して、一緒の日時に予約した。
いざ結果が出たら、
母は何ともなかったのに、私だけが再検査になってしまった。
便潜血検査で、2回のうち1回で陽性になったとのこと。
母も心配して「検査費用が高いのなら、ほら、これあげるから。」と、お札を渡してくれた。
その場で医師からの詳しい説明もなかったので、帰宅してからインターネットで調べてみた。
「便潜血検査」で大腸がんがわかるのがたった3%とのこと。
再検査で受ける「大腸内視鏡検査」は、前日に検査食を食べ、当日には下剤を飲み、腸の中を空っぽにしてから検査を受けること。
なんだか大変なことになってきた・・・
仕事の予定が入っていたため、すぐに予約ができず、2週間後の日程で「大腸内視鏡検査」を予約した。
2日前。食べるものは限られる。
1日前。すべて検査食。江崎グリコの製品だった。グリコさん、こんなところにも進出してるんだ。
当日。白い粉の下剤を2リットルの水に溶かす。
ただひたすら、飲む。
医院では、ベッドに横になり、痛み止めのため、太い針の注射を打つ。
長い時間の検査が終わり、結果を待つ。
腸全体のうち、4カ所の写真を見せられた。
真っ赤で綺麗な色をしている。
医師いわく「奥のほう2カ所は綺麗なんですが、出口近くのところに白や赤の斑点があります。これが何なのか、細胞を採取しました。2週間後にまた来てください」
またか・・・
2週間後。
「調べた結果、このポツポツは陰性のようですね。」
「心配ありません」
あっけなかった。
拍子抜けした。
便潜血検査で陽性になると、こんなに心身の負担を受けないといけないのだろうか。
埼玉県深谷市の深谷肛門科のサイトには、便潜血検査のことを「空振りだらけの検査」と書いてあった。ここのページには、便潜血検査が完璧ではないことや、大腸内視鏡検査について、詳しく書いてある。
こんなにわかっているのなら、
健診センターでこの内容の概要を説明してほしかった。
http://www.fukayakoumonka.or.jp/gan20.html
便潜血検査で陽性になった人のうち、3%は大腸がんが発見されるが、残りの97%はそうではない。
便潜血検査で再検査を指示された人のうち、大腸内視鏡検査を受ける人は6割程度だという。
その人たち全員が、このような心身と金銭の負担を受けているのだろうか。
「便潜血検査には功罪ある」としているサイトもあった。
http://daichou.com/ben.htm
再検査の結果が出る前、
もしかして、がんかもしれない、と思ったが、案外、冷静だった。
40代で父が亡くなっているので、自分も40代までに死ぬかもと達観しているところがある。
自分のまわりにいる、がんを克服した人、がんと闘っている人、がんと共存している人を思い浮かべた。
がん、イコール不幸 ではない、と思った。
ある女優さんのインタビュー記事で「がんは不幸なのか」という趣旨のものがあった。
「がんは不幸、がんでなければ幸福」などという二元論が成り立つわけがない。
一病息災という言葉もある。
がんは疾病。
でも、
がんだからイコール不幸、であるはずがない。
弱い立場に立った経験があると、その弱い立場を察することができる。
たとえば入院生活や受験の失敗、家族を喪う、など・・・
でもたとえ弱い立場になったことがなくとも、想像力があれば、その弱い立場の人の気持ちを察することはできる。
弱い立場に立っても、それを忘れてしまう人もいる。
平田オリザさんの講義を4月に受講した。
ご著書「わかりあえないことから」に書いてあることを、オリザさん自身の口からしゃべるのを聴くことができた。
以下、平田オリザさんの著書から引用する。
私も平田オリザさんのリーダー論に共感している。
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弱者のコンテクストを理解する
東日本大震災以後、リーダーの資格ということが多く問われてきた。
大学でもリーダーシップ教育が、声高に叫ばれている。
通常、そういった場面で言われるリーダーシップとは、人を説得できる、人びとを力強く引っ張っていく能力を指す。しかし、私は、これからの時代に必要なもう一つのリーダーシップは、こういった弱者のコンテクストを理解する能力だろうと考えている。
社会的弱者は、何あらかの理由で、理路整然と気持ちを伝えることができないケースが多い。いや、理路整然と伝えられる立場にあるなら、その人はたいていの場合、もはや社会的弱者ではない。
社会的弱者と言語的弱者は、ほぼ等しい。私は、自分が担当する学生達には、論理的に喋る能力を身につけるよりも、論理的に喋れない立場の人びとの気持ちをくみ取れる人間になってもらいたいと願っている。
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